10月10,11日に岐阜大学医学部第二内科藤原久義教授が会長となられ、岐阜市で第13回日本臨床内科医学会が開催されましたが、ここでは「心の通う情報ネットワ-ク -21世紀の地域医療をめざして-」というメインテ-マのもとに、情報ネットワ-クのシンポジウム、デモ等が持たれました。藤原学会長から、この企画の準備および運営を北海道大学医学部医療情報部桜井恒太郎教授と私が共同で担当するよう依頼され、岐阜市医師会理事会等の了解の上で、同医情報処理委員会のメンバ-とともに1年間に亘って携わってきました。この度約1300名という当初予想をはるかに上回る参加者を得て、無事学会が終わりましたので、ここに今回の情報ネットワ-ク関係のシンポジウム、デモ等についての報告をしたいと思います。
シンポジウムは別表のような内容で行われました。まずシンポジウムの開催に先立って、岩砂和雄岐阜市医師会長の司会で、野田聖子前郵政大臣の挨拶があり、野田先生は担当大臣の立場からみたわが国におけるインタ-ネットの現状と重要性、現在および今後の通信環境の整備、インタ-ネットの問題点等について、わかりやすくお話され、聴衆に感銘を与えました。
ついで、座長が登壇し、その司会のもとでシンポジウムが始まりました。
最初に桜井教授がネットワーク(インターネット)の進歩、北大病院における情報ネットワーク、ネットワークの学術利用法を中心に発表されました。世界におけるインタ-ネットの普及や回線速度の目覚しい向上、全国の30大学病院を結ぶ衛星通信によるHDTVネットワ-ク(MINCS)、登録した医療関係者が3万人を超えた大学医療情報ネットワーク(UMIN)、あるいは病院内や訪問看護先での画像転送、医学教育におけるインタ-ネットの有用性等を紹介されました。
2題目は秋山先生が、東京都新宿区医師会における病診連携、包括的地域ケアによる同一地域内での1患者1カルテの実現について講演されました。情報ネットワ-クを用いることで、中核医療機関側から診療所側へ画像や各種検査の伝達を行い、二重検査の防止(被爆量の減少、医療費削減)等のメリットが得られることを示されました。この病・診・看護連携システムの骨子は新宿区医師会、中核病院、訪問看護ステーションに、WWWサーバを設置し、それぞれの施設で発生した患者の情報を、「患者ホームページ」として、個々のWWWサーバで管理する。各WWWサーバはイントラネット内に設置しインターネットへは公開しない。それぞれの情報は、新宿区医師会の「患者ホームページ」からリンク付けされており、一人の患者に対して各施設で実施した診療や診断の内容を参照することができる。また、患者のホームページを参照するスタッフを認証し、許可された医師や看護婦しか患者ホームページを参照できないようにする。ということでした。その他、TV電話と電子カルテを一体化した在宅医療システムや学校保健・教育システム、災害時にこの地域医療連携用電子カルテを利用して、日常診療のデータを検索できる災害医療システムなどが統合され「包括的地域ケアシステム」として構築されていました。 ついで越野先生が医師会情報ネットワ-クについて、岐阜地区の現状を報告しました。岐阜地区総合医療情報ネットワ-クの沿革、システム概要、啓蒙・普及活動から応用(通達文書の配信、インフルエンザ情報、医療機関デ-タベ-ス、心電図デ-タファイルの利用等)等、医師会情報ネットワ-クの意義について発表しました。
また河合は全国の情報ネットワ-クの構築状況を全国アンケ-トの結果を基に発表し、現在全国ではイントラネットあるいはメ-リングリストによって情報ネットを構築している医師会が50あり、加入者総数は約6000名であることを報告しました。特にイントラネットでは、構築費用は内部構築か外部委託構築かでかなりの差があり、平均の普及率は33.9%であること、メリットとして迅速な情報伝達や会員間のコミニュケ-ションの向上、患者情報の共有、病診連携等に有用と考えられるが、一方で費用や管理者への負担も少なくないことを述べ、これらの諸点を考慮した上で、各地域の現状にあった情報ネットワ-クの構築が望まれることを強調しました。
長瀬先生は厚生省遠隔医療研究班の立場から、テレパソロジ-、テレラジオロジ-、在宅ケア等における遠隔医療、あるいは遠隔妊産婦管理等の実例をいずれも音声付の動画で示されました。また遠隔医療の方法、課題(法令、診療報酬、責任、通信機器)、利点(患者サ-ビス向上、経済的な利点、専門医との連携、ネットワ-ク化)等にも触れられ、わかりやすく説明されました。
大櫛先生は患者情報ネットワークの必要性、患者への医療情報開示、医療機能分化と連携、顔の見えるネットワークという内容で講演されました。特に医療の機能分化(かかりつけ医~急性期型医療~療養型医療)、地域医療(在宅医療、訪問看護、在宅介護)、保健医療福祉連携、患者との共同作業がネットワ-クの必要性を求めていることを示されました。具体的な方法としては、電子カルテ、電子健康保険証、在宅ケアスケジュ-ル管理、テレビ電話による医療福祉連携、東海大学の附属3病院と海外(カナダ)を含めたテレビ会議ネットワ-クについてご紹介されました。なお大櫛先生は今学会期間中に催された遠隔医療デモのサマリ-についても報告されました。
この後追加発言として、加古川市加古郡医師会理事の足立光平先生が加古川地域保健情報システムの紹介をされました。このシステムは保健医療福祉ネットワ-クの全国の先駆けとなるシステムで、その概要や利用状況の説明とともに、最近スタ-トした情報ネットワ-クによる介護保険・認定審査会支援システムについても紹介されました。
最後に全シンポジストが壇上に上がって総合討論を行い、フロアからのご質問を受けたり、座長、シンポジスト間のディスカッション等を行って6時にシンポジウムを終えました。
10日、11日の2日間に亘ってロビ-では、テレビ会議による遠隔医療デモ「新しい医療形態を考える」が行われました。特に10日の1時~2時は東海大学MCU(多地点テレビ会議装置)を用いて、東海大学(岡田先生他)、名古屋大学(医療情報部・山内一信教授)と学会場をPhenix1.5で結んだ多地点接続デモが行われましたが、参加者が予想以上になり、会場をロビ-からメイン会場に移して多数の先生の前で遠隔医療デモが行われました。また11日は10時~11時の間に東海大学と会場を結んだ2点間接続デモがロビ-で行われました。
2日間でとりあげた画像は異なりますが、内容はいずれも静止画と動画であり、静止画では病理組織、内視鏡、胸部X線等についてアナログとデジタル画像(ホワイトボ-ド利用)について比較検討し、動画では心エコ-、カラ-ドプラ、手術中継等が供覧されました。東海大学の病理専門医、呼吸器専門医からコメントをいただいたり、11日はこれらコメンテ-タ-と学会場の医師との間で熱心なディスカッションが繰り広げられました。
今回は診療所の医師が簡単に利用し得るISDNを1本使用したパソコン仕様のテレビ会議システムがどの程度日常臨床において、遠隔地間の画像の参照、紹介等に有用かを実際に参加者に体験していただきました。なおこの他にNTTによるISDN 3本を使ったPhenix2000HXによる動画中心のテモやフクダ電子による心電図、脈拍、血圧、酸素飽和度等のモニタ-も装着した遠隔医療のデモも行われました。
今学会期間中ロビ-にパソコンを10台設置し、臨時のインタ-ネット専用線でプロバイダと接続し、またISDN回線で岐阜地区総合医療情報ネットワ-クとも接続してインタ-ネット・イントラネットデモが行われ、多数の参加者を集めました。この学会にはパソコン初心者の先生も少なくなく、岐阜市医師会情報処理委員会のメンバ-が懇切丁寧にパソコン指導をしていたのが印象的でした。
今回の学会では1年前から準備を始め、桜井教授を交えての打合会を何回か現地で開催し、また遠隔テレビ会議は3地点のシステムが異機種ということもあって延べ10回近く実験を重ねました。また今回のシンポジウムでは、会場内に1600ル-メンの液晶プロジェクタを2段重ね(スタック)にして3200ル-メンの超高輝度で映写しましたが、このスタック映写は学会では多分今回が全国で初めての試みだろうとのことでした。
学会前日の9日は日中はロビ-でパソコン設置、LANケ-ブルの敷設や、ル-タ-等の設定、テレビ会議の最終チェック等を行い、市民公開講座の終了6時過ぎからはメイン会場内で液晶プロジェクタのスタック調整に約2時間費やし、全シンポジストの先生によるパソコンと液晶プロジェクタの接続テスト兼リハ-サルが終わったのは夜の10時過ぎでした。
このようにほとんど手作りで準備することができたのは座長の桜井教授を中心としたシンポジスト、岐阜市医師会情報処理委員会のメンバ-、学会事務局のご協力の賜と思います。
また県医師会、岐阜市医師会、学会事務局(岐阜大学第二内科)がそれぞれ液晶プロジェクタを持ち寄って、スタック映写やロビ-デモに用いたことはこれら3者の連携が如何にうまくいったかの象徴であるというコメントをシンポジウムの冒頭で桜井教授が述べられ、参加者の共感を得ていました。
今学会における情報ネットワ-クのシンポジウム、テレビ会議、インタ-ネット・イントラネットのロビ-デモ等については、藤原学会長、小坂県医会長、岩砂岐阜市医会長等の指示の下、桜井教授、大櫛教授、山内教授等の大学関係者、秋山先生のような国立医療機関の先生と我々医師会関係者が一致協力して共同作業を行った結果、素晴らしい成果が得られたと思います。情報化社会の到来を迎え、また病診、診診連携あるいは保健医療福祉の連携、医療の情報化、情報開示等が要求されている今日、今回の催しの趣旨が単に一学会内にとどまらず、広く医療関係者に波及していくことを念願しています。 最後に今回、ご協力をいただいた全ての関係者の皆様に感謝します。