学会・研究会・講演会報告
(ネットワーク関連)

「国際協力機構の講義を担当して」
岐阜市医師会副会長
日本臨床内科医会理事  河合 直樹 更新日:2006.08.07

 独立行政法人国際協力機構(JICA)は開発途上国の経済・社会開発に必要な人材を養成する一環として研修員受入事業を実施しているそうです。今回、平成18年度「学校保健コース」と題した研修コースが5月22日~7月7日の日程で実施されることになり、このうち7月5日の研修を岐阜市医師会、岐阜市教育委員会、岐阜市保健所が担当しました。これには「あいち小児保健医療総合センター」総合診療部長・保健室長の山崎嘉久先生から5月頃に協力要請があり、岐阜市医師会理事会で協力が決まったという経緯があります。ちなみにこの研修会の岐阜市医以外のテーマを抜粋すると、学校教育と母子保健、日本の学校保健システム、学校保健統計、学校保健の構築、日本の学校医制度、世界の中から見た日本の学校保健、学校保健を支える民間システムとその歴史寄生虫対策の歴史、予防医学協会の見学、途上国での学校保健活動の実践、実践的活動からみた養護教諭の歴史、地方教育行政、性・エイズ、日本の学校給食システム・学校給食の運用、愛知県衛生研究所の概要と寄生虫疾患、学校検診システム全般・事後評価管理指導表・学校心臓検診、学校検尿システム、愛知県における学校検診(特に内科検診)、検診現場の視察(歯科検診)、養護学校での学校保健活動(知的障害・肢体不自由等)、日本の結核対策 TB control in Japan、養護学校での学校保健活動などがありました。
 7月5日午前10時に愛知県から「JICA」の専用バスで研修生12名と同行の山崎先生、日本国際協力センター研修監理員の山本久子さんが岐阜市医師会館に到着しました。研修生の出身国はアフリカのボツワナ、ケニア、マラウイ、ニジェール、南アフリカ、ザンビア、ジンバブエ、アジアのインドネシア、ラオスで、研修生の立場は医療関係者、教育関係者、行政関係者ということで、それぞれが自国の保健・医療・教育関係の中枢を担っておられる方々と伺いました。なお講義や質疑応答は全て英語で行われましたが、質疑については同行の山本さんから通訳の手助けをしていただきました。
 講義は岐阜市医師会別館4F研修室で行われ、午前の2時間は岐阜市保健所、教育委員会が「地域の保健拠点としての学校・保健所の連携」というテーマで講義を担当し、約1時間半の途中休憩を挟んで、午後の2時間は岐阜市医師会が「感染症サーベイランスとのリンク」というテーマを担当しました。岐阜市医師会担当分は、前半約1時間河合が岐阜市医師会、岐阜市保健所、岐阜市教育委員会との間でインターネットで連携し実施されている「岐阜地区のインフルエンザ情報システム」について講演し、後半約1時間は矢嶋先生が「小児感染症サーベイランスに関する講義」をされました。
 この2題の講演を通じて、研修生が熱心に講義に耳を傾けられる姿勢と、質疑応答での積極的な発言に大変感銘しました。やはり各自がそれぞれの国の保健教育行政の将来を担うとの使命感がひしひしと感じられ、研修会も真剣そのものであったと思います。全ての講演と質疑が終了した3時半に研修生の皆さんがわれわれに感謝と別れの言葉を送りつつ、山崎先生、山本さんとともに岐阜を後にされました。岐阜での研修会は研修コース最終日の前日ということで、それまでの実質1ヶ月強に亘った研修会の約半分に同行されたという山崎先生にも安堵の表情が伺えました。今回、初めての英語による長時間の講演ということで、準備はかなり大変でした。しかし終わってみると、このような尊い活動に岐阜市医師会として参加でき、貴重な経験をすることができましたことを大変誇りに感じますし、関係者の皆様に心から感謝したいと思います。
 以下、私の講演要旨を載せるとともに、矢嶋先生からいただいた講演要旨と研修会の感想を載せて報告を終わらせていただきます。

「岐阜地区のインフルエンザ情報システム」
 岐阜市では1999年冬から市内および近郊の各医療機関の協力の下に、インターネットを利用したインフルエンザ情報システムを開始し、2006年冬で8年を迎えた。このシステムは岐阜市医師会館のインターネットデータベースサーバを利用し、参加医療機関がインフルエンザ様疾患(ILI)患者の毎日の新規発生数を入力するとともに(一部はFAXデータを事務局でインターネットに代行入力)、教育委員会からは毎日の各学校の欠席者数、学級閉鎖数などをインターネット入力し、保健所は定点医療機関の患者数を毎週厚労省へ報告するとともに、委託した市内6医療機関から検体提出を受け、ウイルス分離培養をするというものである。なお2006年からは従来の症状診断によるILIの他に、迅速診断陽性例をA型、B型別に入力するように改良した。2006年の集計は参加医療機関数107、ILIは13,271例、うち迅速診断陽性はA型8,829例、B型665例の計9494例であった。最近7年間のILI数は、2000年:12,917、2001年:2,889、2002年:7,326、2003年8,730、2004年7,639、2005年16,344、2006年13,271であり、また年によって流行するウイルス型、流行の時期やピーク、学級閉鎖の時期や期間に大きな差異がみられ、このようなリアルタイムのサーベイランスの有用性が示された。
 また岐阜市医師会のインターネットサーバーを利用して日本臨床内科医会が行っているインフルエンザ全国調査も過去6年に及び、その成果はClinical Infectious diseases(CID)誌やVaccine誌などの英文誌にも多数掲載され、世界的にも高い評価を受けている。このようなインターネットを利用した感染症サーベイランスは感染症の種類や国を問わず、有用である可能性がある。などの内容を具体的な表示画面や解析データなどを含め、英文スライド45枚で説明した。
 なお質疑では、このようなインフルエンザ情報の意義やメリット、インターネット利用環境の現状等についてのディスカッションがあった(以上、文責河合)。