岐阜市医師会館にて、JICA研修生12名を対象に講義を担当しました。山崎先生から依頼があった時にはJICA研修生の立場、来日目的もまったく知らされておらず、深く考えることもなく承諾したのですが、日程表をいただいた段階で、事の重大さにとまどってしまいました。彼らは多少訛りがあるものの完全に英語での意思疎通ができるレベルでしたので、講義の後半に用意された質問時間は一方的に質問やらコメントやら英語の嵐で冷や汗たらたら、ほとんど通訳を介しての質疑応答になってしまいました。
今回の講義は英語が義務つけられていたわけではないのですが、努力義務で、スライドならまだしも、説明も英語でお願いしたい、ということでしたので、大変苦労しました。内容的にも岐阜市の小児感染症サーベイランスの話だけで40分というのは、日本語で考えてもとうてい満たせないわけで、いかに中味の濃いものにするか、困り果ててしまいました。そんなわけで講義が終わった今でも、これが最初で最後だ、と思っています。
さて、私の講義の内容ですが、インターネットを使ったサーベイランスを話しても、彼らが帰国して導入できる環境にあるとは思えませんでしたので、前半をサーベイランスの話とし、後半は麻疹と風疹の話を中心に進めました。
まず、国立感染症研究所の一部門にある感染症サーベイランスセンターの位置づけと日本国内の感染症サーベイランスの全体像を説明しました。感染症新法の対象疾患は1類から5類まであり、5類は全例報告疾患と定点報告疾患に分かれていること、インフルエンザと小児感染症は5類の定点報告疾患という位置づけになります。小児感染症は13疾患で発生頻度の高い疾患が主ですが、麻疹、風疹など発生数が減少している疾患は今後、全例報告としたほうがよいであろうと考えます。全国の感染症登情報は定点から保健所、県庁を経由して国立感染症情報センターに集約され解析して2~3週間後に公表されます。過去5年間の流行と比較して今年は咽頭結膜熱とマイコプラズマ感染症が多いことが週報からわかります。しかし、登録の即時性がないことと、麻疹など発生数が少ない疾患では定点報告が実態を正しく反映しないといった問題があります。
後半は麻疹と風疹特に先天性風疹症候群の国内事例を紹介しました。麻疹では私が経験した脳炎の女児例、5年前の沖縄での大流行、風疹は1964年に沖縄で数百人の先天性風疹症候群が発生した事件を取り上げ、ビデオの一部を上映しました。また、サーベイランスの問題点として、今年関東地区で流行している麻疹の全数報告システムがうまく稼働していないことを指摘しました。麻疹や風疹は重大な感染症ですが、予防接種により排除可能であると同時に、サーベイランスシステムよりも政治的な意思(political will)が大切であると訴えました。
講義終了後の質疑応答では、とりあげた2つの事例が沖縄県であったため、地域的な特性や民族事情などがないか、なぜ日本では麻疹の流行が繰り返されるのか、といった、感染症サーベイランスとは別の部分に話題が集中しましたが、私の言わんとすることをよく理解され、本国に帰っても参考になる話であったと思っています。